菌
先日の事である。
出掛け先にて、お手洗いをお借りした際、清掃が終わったばかりなのか、漂白剤のような臭いが充満していた。
私はこの臭いが大変苦手で、幼少期、学校のプールで実際にプールに入る前に、消毒槽と呼ばれる、消毒液で満たされた箇所を通過しなければいけなかったのだが、ここを通るのが憂鬱で仕方なかった。また、台所を掃除する際に漂白剤をやむなく使用する場合、部屋中の窓を開け放ち、換気を充分にしない事には、未だに耐える事が出来ない程である。
で、件のお手洗いだが、呼吸をするのが非常に辛く、息を止め用を済ませ、手を洗うのもそこそこに酸素を求めお手洗いから飛び出した。
標高の高い場所であるだとか、深海に匹敵する程の深さの所であるならいざ知らず、まさか地上にて、ふらりと立ち寄ったお手洗いでこのような試練に出くわすなどとは夢にも思わず、外に出て、ぜーはーと荒く呼吸をするはめとなった。
その様は、お手洗いの臭いを嗅ごうとしている嗅覚の壊れた変態みたいであった。
ちなみに、我が弟は私が再三苦しめられているこの漂白剤の臭いが好きなようで、先の事を話した際に「それは、お前が消毒されるべき雑菌そのものだからだ」と言い放たれた。
私はどうやら、残りの人生を“菌”として生きていかねばならないようである。